👀チョウザメ稚魚の飼育実験から学ぶ「餌の重要性」
1.適切な餌は稚魚の生存を左右する
💡良質な餌料を与えることで稚魚の死亡率を大幅に下げることができる
2.冷凍餌は悪くない!むしろ有効
💡「精密凍結活餌料イサダ」などの冷凍餌料は、水質を保ちながら稚魚の成長を促進する優れた選択肢。
3.観察と工夫で成果を出す
💡餌の種類や品質を工夫するだけで、飼育の結果が大きく変わる可能性がある。


【目的】
美深チョウザメ館(北海道・美深町)は、1983年に水産庁養殖研究所の飼育実験の一環として、びふかアイランドの三日月湖に300匹のベステル種を放流し養殖事業を開始。以来、約40年にわたりチョウザメの養殖に取り組んできたが、孵化直後の魚体における斃死(へいし)減耗が重要課題として認識されている。チョウザメの初期餌料として使用されるイトミミズは、原産国のロックダウンの影響により入手が困難となり、国内での供給不足が顕在化している。この問題により、自前での調達を余儀なくされ、労力の増加が課題となっている。また、数十年にわたりチョウザメ養殖を行っているが、孵化させた仔魚の生残率が10%を切ることが一般的であり、年によっては全滅させてしまうこともある。種苗生産方法が未だ確立されておらず、キャビアの安定生産に目処が立っていない。現状釣り用の凍結三陸産オキアミ餌料を与えているが、乾燥ペレット(人工餌)に比べて生残率の改善は見られるものの、依然致死する仔魚が目立つ状況にある。
これらの課題を踏まえ、市販冷凍三陸産アミエビと精密凍結活餌料「イサダ(ツノナシオキアミ)」を用いた給餌比較実験を実施した。生残率の比較を通じて、精密凍結活餌料がチョウザメの新たな初期餌料として有効である可能性を検討した。
【方法】
飼育環境を揃えた2種類の水槽を用意し、以下の条件で比較飼育実験を実施した。
1.餌料の設定
・コントロール水槽: 市販冷凍三陸産アミエビを使用した。
・実験水槽: 精密凍結活餌料イサダ(ツノナシオキアミ)を使用した。
2.初期餌料の統一
孵化仔魚の口径に適合するため、両水槽とも最初期餌料としてイトミミズを使用した。その後、適切なタイミングで市販冷凍三陸産アミエビ、精密凍結活餌料イサダ(ツノナシオキアミ)のみの給餌に移行した。導入時には餌を適宜カットし、仔魚の口径に合わせた。
3.期間
凍結餌料導入時から比較と観察を実施した。

冷凍三陸産アミエビ
2022年9月4日

精密凍結活餌料イサダ
2022年9月4日

冷凍三陸産アミエビ
2022年10月20日

精密凍結活餌料イサダ
2022年10月20日
【結果・考察】
飼育者の評価として、①精密凍結活餌料の使用により、これまで顕著化していた斃死、浮き魚ともに圧倒的少数で抑えられる。②成長も比較対象の水槽で飼育している個体よりは、全体的に大きい。③水槽内の汚れがほとんどない。等が報告された。また、飼育水槽写真にあるとおり、市販冷凍三陸産アミエビを用いた水槽では、水槽の汚濁(コケの大量発生や水質の濁り等)が当然であり、清掃や灌水が業務となっていたが、対する精密凍結活餌料においては水の汚れもなく、水槽へのコケの付着等もほぼ確認されていない。
これは、餌料自体から水槽中に漏出する栄養物質が精密凍結餌料においては極めて少なく、給餌した餌料がチョウザメ仔魚の消化管内まで確実に届き、正常に消化が行われていることが推測できた。
これを裏付ける根拠として、各餌料実験区においては、明らかな成長差が観察された。


本給餌比較実験の結果、精密凍結活餌料が果たす役割が当初の想定を大きく上回ることが確認された。精密凍結活餌料の使用が生存率や成長において市販の冷凍餌料より有利であることが示唆された。また、餌料自体から栄養物質の漏出が少ないことが推測され、水質の良好な維持に寄与している可能性がある。特に、ニホンウナギなど人工飼育が未確立の産業魚における初期餌料としても有効性が期待できる結果となった。これらの初期的な結果を踏まえ、さらなる長期的検証や詳細な科学的分析を進める予定である。