三陸エンリッチメント研究室

MENU

Special talk特別対談・座談会

⽔槽で⿂を飼育するということ-知ると飼うのが楽しくなる科学的知⾒-【井田齊名誉教授×黒倉壽名誉教授】

 当研究室の三陸臨海研究室において、魚類分類学・水産資源学を専門とする井田齊北里大学名誉教授、水圏生産科学・水産増殖学を専門とする黒倉壽東京大学名誉教授をお招きし、特別対談を開催いたしました。本対談では、「魚の発生や成長」「水槽という閉鎖環境の特殊性」といったテーマについて、科学的見地から深いお話を伺うことができました。

「魚と向き合う心構え」これからの世代へのメッセージ

 当初、この特別対談は、産学官連携研究開発事業の一環として一部公開を予定しておりました。しかしながら、井田齊先生と黒倉壽先生がこれまでの研究生活を通じて培われた経験や、日々の研究活動の中で得られた「魚と向き合う心構え」について真摯に語ってくださった内容は、私たちの研究室の枠を超え、より広い世代にとって重要な気づきや学びになるべき貴重な内容であると感じました。

 特に、魚の命や生態系に対する深い敬意、環境と調和した研究と実践の姿勢、そして水産資源や水槽という閉鎖環境特有の課題への取り組み方は、私たちが今後進むべき方向性を示唆してくれるものでした。こうした貴重な考えを資料として保管するだけでは、社会に還元されるべき大切な知見が埋もれてしまうと考え、この対談内容を余すところなく公開する決断をいたしました。

 井田先生、黒倉先生のお二人には、これまでのご経験をもとにした真摯で洞察深いお考えを惜しみなく共有していただき、心より感謝申し上げます。今回の特別対談で語られた貴重な内容が、私たちも含め、アクアリストや水槽管理に携わる方々、そして未来を担う次世代の方々にとって、新たな学びや発見、さらには魚と向き合う姿勢について考えるきっかけとなれば幸いです。

  • 井田 齊

    井田 齊Hitoshi IDA

    北里大学海洋生命学部 名誉教授

    主要研究テーマ:魚類分類学・水産資源学

    東京水産大学(現・東京海洋大学)を卒業後、東京大学大学院で農学博士を取得。 長年にわたり、北里大学海洋生命科学部(旧・水産学部)にて教育・研究に従事し、魚類の分類や水産資源管理に関する多くの研究成果を発表。特に、シロザケの回帰生態や系統分類の研究で知られる。著書に『現代の魚類学』(朝倉書店)、『魚の事典』(東京堂出版)など多数。また『小学館の図鑑NEO 魚』の監修も務めるなど、魚類学の普及にも尽力。 現在も研究活動や執筆活動を通じ、海洋資源の持続可能な利用と生物多様性の保全に貢献している。「第12回東急財団 社会貢献環境学術賞」受賞。

  • 黒倉 壽

    黒倉 壽Hisashi KUROKURA

    東京大学大学院農学生命科学研究科 名誉教授

    主要研究テーマ:水圏生産科学・水産増殖学

    東京大学農学部水産学科を卒業後、同大学大学院農学系研究科博士課程を修了し、農学博士の学位を取得。東京大学農学部附属水産実験所や広島大学生物生産学部を経て、1997年より東京大学大学院農学生命科学研究科教授として活躍。研究テーマは東南アジアのマングローブ生態系や沿岸環境の物質循環、水産資源の持続的利用など多岐にわたる。また、国際協力や環境保全活動にも積極的に取り組み、海洋生態系の保全と持続可能な発展に貢献。主な著書に『水圏の放射能汚染 福島の水産業復興をめざして』(恒星社厚生閣)、『海の食料資源の科学―持続可能な発展にむけて』(勉誠出版)、『人と魚の自然誌―母なるメコン河に生きる』(世界思想社)など多数。海洋学と水産学の普及にも尽力している。「令和元年度日本水産学会功績賞」受賞。

  • 鈴木 崇史

    鈴木 崇史Takashi SUZUKI

    鹿児島大学水産学部水産経済学分野 助教

    主要研究テーマ:水圏生産科学・環境政策

    2019年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。北里大学海洋生命科学部在学時に東日本大震災を経験し、震災被災地の水産物マーケティングに関する研究を始めたことが大学院進学のきっかけに。博士課程修了後は、東京大学の特任研究員として水産物の輸出戦略や環境認証に関する調査・研究を行うと同時に、復興庁事業を活用し、岩手県の水産加工会社(有限会社三陸とれたて市場)の輸出補助業務等に従事した。担当科目は「日本水産業概論」、「水産科学英語」等。

  • Part 1

    1. 魚の発生に関するこれまでの研究の歴史
    2. アマチュアダイバーや水族館と共に歩んできた魚の発生研究
    3. 魚類養殖研究の歴史
    4. 魚類養殖において使われるエサ開発の歴史


     

    【テーマ: 魚の成長と形態変化を科学する】
    魚はどのように卵から成長し、形を変えていくのか?その過程にはどんな意味があるのか?魚類研究の基礎とも言える発生学を、自然環境と人工環境の視点から掘り下げます。

    💬黒倉先生のお話:
    「魚の形態変化の研究では、自然環境下で卵から稚魚、成魚へと成長する形をトレースすることが根底にありました。形が変化していくプロセスが、魚のどんな機能発達に繋がるのかを考えるのが鍵でした。さらに、1970年代には、顕微鏡などの技術の進化により、飼育環境下で魚の形態変化を詳細に記述する研究も進みました。このような研究が、養殖や種苗生産の基礎を築いたのです。」

    💬井田先生のお話:
    「1970年代には、水族館内の飼育環境でも大潮、新月・満月に多くの魚類が産卵することが観察されていました。ただ当時は、それが月齢とシンクロしていることに気づかなかったんです。その後、20世紀の終わり頃にダイバーが新月・満月に潜ることで、自然環境の産卵行動と一致していることが確認されました。」




     

    特別対談全5話、いよいよ始動!

    Part 1をテキストで読む
  • Part 2

    5. 自然界における魚の摂餌に関する研究の歴史
    6. 人工的なエサ「配合餌料」開発・研究の歴史
    7. これまで見落とされてきた研究の視点:「個」としての魚の研究
    8. 学術機関とアクアリストの連携の可能性①


     

    【テーマ: 魚にとっての“理想の餌”とは?】
    魚の成長段階に合わせた適切な餌が、健康を支え、機能を発達させる重要な鍵となります。自然環境と人工環境における餌の違いや、配合飼料の開発史を通じて、魚の健康と成長を科学的に掘り下げます。

    💬井田先生のお話:
    「稚魚の口のサイズは体の約4分の1。例えば、生まれたばかりの稚魚は0.7ミリ程度の口で、0.2~0.3ミリ以下の餌しか食べられません。自然環境では適切なサイズの餌を選べますが、人工環境では我々が用意する餌に頼るしかありません。その困難を克服するために、養殖の現場ではさまざまな工夫が必要とされてきました。」

    💬黒倉先生のお話:
    「魚は孵化してから成魚になるまで、ものすごい勢いで大きくなる。ということは体内のシステムを変えなきゃならない。この成長段階に応じた餌の要求が、養殖や配合飼料の研究を進めてきた背景にあります。」




     

    魚にとって餌とは何か?その奥深さに迫る。

    Part 2をテキストで読む
  • Part 3

    9. 魚類の健康状態の見方とその管理
    10. 魚類の健康状態を見抜く人事の育成
    11. 自然環境をベースに飼育環境下での魚の形態異常を考える


     

    【テーマ: 魚の健康をどう見抜く?】
    魚の健康を見抜くには、日々の観察が欠かせません。行動や呼吸の安定性、異常が現れるタイミングをどう見極めるか、科学的な視点から掘り下げます。

    💬黒倉先生のお話:
    「飽食まで食べさせて、餌食いの量が下がってないかどうか、あとは日常のbehaviorです。そういうものは、やっぱり見ていて、上手な人の感覚ってかなり鋭くて、きちんと早期に異常を発見しますよね。」

    💬井田先生のお話:
    「呼吸数というのはエラ蓋の開閉運動ですぐわかるわけですけど、健康な魚では開閉運動が非常にゆっくりです。それが病態になると、泳ぎ方がせわしなくなり、呼吸数も多くなる。」




     

    飼育の奥深さを科学的視点で考える。第3回をぜひご覧ください!
    Part 3 本編動画・テキストは12/15(日)公開!




     

  • part 4

    12. 難飼育魚の餌と食性に関する研究とは
    13. 難飼育魚の餌を見つける困難さ
    14. 学術機関とアクアリストの連携の可能性②
    15. 「餌離れ」は自然環境と飼育環境の差によるストレスで起きる
    16. 飼育環境下で魚にかかるストレスを軽減するためには
    17. ヒトと魚の類似性から魚との接し方を考える


     

    【テーマ: 難飼育魚の挑戦と未来】
    飼育が難しい魚に挑むためには、まず自然環境下での餌や生息環境を理解することが必要です。その上で、人工環境での代替餌の開発やストレス軽減といった課題を解決する方法を探ります。研究者とアクアリストが協力し、難飼育魚の「難」を取り除く未来に向けた議論が展開されます。

    💬黒倉先生のお話:
    「初めて飼う生き物を飼うのは、魚に限らず難しいものです。自然環境下で彼らが何を食べているのかを解明し、その餌を提供するか、代替できるものを探す。そういう試行錯誤を積み重ねてきた結果が、養殖や飼育技術の発展に繋がっています。」

    💬井田先生のお話:
    「飼育困難魚は、自然界で他の魚が利用していない餌や空間を利用するスペシャリストが多いんです。例えば、サンゴポリプを食べるチョウチョウウオの仲間などが典型です。このような知見を蓄積し、アクアリストと情報を共有することで、飼育技術の進歩が期待できます。」




     

    難飼育魚の未来を切り拓く。第4回公開をお楽しみに!
    Part 4 本編動画・テキストは12/20(金)公開!




     

  • part 5

    18. 魚にとっての寿命とは
    19. 「魚を長生きさせる」という新しい試み
    20. 自然環境と飼育環境の橋渡しとしての餌
    21. 学術機関とアクアリストの連携の可能性③
    22. クロージング:三陸エンリッチメント研究室の役割


     

    【テーマ: 魚にとっての寿命とは?】
    魚の寿命とは何か。自然環境と人工環境での違いや、長寿研究の可能性を探ります。アクアリストにとって、魚を長生きさせることは挑戦であり、新たな視点の楽しみでもあります。この議論を通じて、飼育の未来への道筋を考えます。

    💬黒倉先生のお話:
    「魚の寿命があるかないかという問題は、事故死や病死が大半を占める自然環境では測定が難しいんです。人工環境で事故や病気を避け、どこまで生きられるかを試すことで、寿命の概念に近づける可能性があります。」

    💬井田先生のお話:
    「自然環境で弱った個体はすぐに他の生物に捕食されてしまうため、寿命が尽きるまで生きるケースはほとんどありません。しかし、人工環境では、自然では見られない長寿の可能性が開けるかもしれません。」




     

    魚の寿命と長生きへの挑戦。第5回公開をお楽しみに!
    Part 5 本編動画・テキストは12/25(水)公開!