三陸エンリッチメント研究室

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⽔槽で⿂を飼育するということ-知ると飼うのが楽しくなる科学的知⾒-【Part 3】

  1. 魚類の健康状態の見方とその管理
  2. 魚類の健康状態を見抜く人材の育成
  3. 自然環境をベースに飼育環境下での魚の形態異常を考える

9. 魚類の健康状態の見方とその管理


鈴木 では、次の部を始めたいと思います。まずは飼育環境下における魚の健康評価という点で、お伺いしたいことがあります。というのも、魚の調子を見ると言っても、彼らには表情がなく、何も物を言わないので、そうした中でどういったポイントに注目して魚を見ていくのが、健康評価においては重要なのかということについて、お二人のご経験を基に、ご意見をいただければと思います。


黒倉 難しい話ですね。人間の病気は患者さんが医者にかかったときに、どこが調子が悪いんですかとか聞けばいいし、聴診器を当てればいいし、それからいろんな測器もあるから測れば、大体どこが悪いのか想できるんだけど、魚は口きかないから、症状がわからないっていうのは魚病学やっている人の悩みなんだけど。ただ経験的にね、例えば養殖をやっている人、飼育担当の人の中にはちゃんと着眼点があって、一番彼らがよく見ているのは、餌を食べる状況ですよ。

 きちんと記録しなさいって言っているのは、飽食まで食べさせて、餌食いの量が下がってないかどうか、あとは日常のbehaviorです。そういうものは、やっぱり見ていてそういう上手な人の感覚ってかなり鋭くて、きちんと早期に異常を発見しますよね。

 やっぱりそれがベースになっていると思います。餌やるときの行動とか、餌を食う状況とか。その他で、いろんな標本にして分析するとかあるかもしれないけど、ちょっと特殊な例かもしれない。だから、そんなところですかね、養殖ではっていうと。そういう意味では、自然環境の中で何かbehaviorを見てきた方に聞いた方がいいかもしれない。


鈴木 そうですね、自然環境の中での動きに関してはおそらく井田先生がいろいろなお魚を見られて来たと思います。自然環境の魚を見ていて、この魚は調子がいいとか、悪いとかそういったことを見極めるポイントってありますか。


井田 行動が安定しているっていうことは大事だと思いますね。遊泳性のものと底生性のものではかなり違いがありますけども、いつも常時泳いでいるようなイワシとかそういったものを詳しく観察することができない。大体、遊泳速度っていうのは一定しているんですね。定着性っていうか根付きの魚では、行動は極めて緩慢なんですよね。あるアクアリストの飼っている魚の例では、泳ぎ方が非常にせわしなくて、呼吸も非常に多い。呼吸数というのはエラ蓋の開閉運動ですぐわかるわけですけど、その開閉運動が自然状況だったら極めてゆっくりで、多分私達の脈拍は大体60から100ぐらいでしょうか。魚の呼吸数もそんなに速くないんですね。

 やっぱり遊泳とか呼吸が、平常時は安定していると思うんです。ですから、それが病態になったときには、あらゆる動きが早まったりと、何らかの異常をその個体が抱えていると思います。


鈴木 なるほどですね。やっぱり観察をして、外見上の観察っていうものでも十分やっぱり魚の健康は感じ取れると。


井田 異変は検出できると思います。通常の行動は、極めて安定性が高いと思います。体は妙に岩に擦りつけるとか、水面に向かって移動するとか、そういうような多分病変の現れだろうと思います。


黒倉 まだやられてない研究だと思うんだけど、ひょっとしたら、ある部位の形の変化とか、全体的なプロポーションの変化とか、そういう研究視点もあるかもしれないですね。

 例えば餌を食う量なんかも大事だけど、体重の増減とかね。人間だって体重の増減は健康のバロメーターですよ。理想的なのは、人間と同じように熱が測ればいいんだけどね。でも、代謝全体って意味では、ひょっとしたら形の変化みたいな形で魚に現れてくるかもしれない。コンピューター画像解析みたいなのを使えば何か出てくるかもしれない。


鈴木 なるほどですね。まさしくその餌の話、代謝の話と結構関係をしてくるかなと思ったポイントが、養殖魚でやっぱり飼育環境下に置かれているものって外見が自然界の魚とは変わってくるよということです。養殖魚は、単年飼育や2年飼育ぐらいで、最終的に食用に加工してしまうというところで、それでもいいんでしょうけど、おそらく水族館等で長期飼育をしていく場合は、こういった外見チェックと餌食いの様子を観察していくは、より重要になるのかなと、今お話を聞いていて思いました。

10. 魚類の健康状態の見方とその管理


鈴木 あと、井田先生と黒倉先生のお話で共通しているのは、魚を見る人間の感性がかなり関わってくるなということです。要するに、どこに注目ができるのかとか、餌食いを見るっていう飼育者の行動自体も、やっぱり気づくか気づかないかがおそらく人によってあると思うんですよね。研究者の方々にも飼育が上手い人や下手な人がいると思います。この辺の感性って育てられるものなんですか。


黒倉 飼育が下手な僕からすれば、努力はしたんだけど下手だから、やっぱり元々持っている気持ちの安定性であるとか、観察眼とか、そういうものは効いていると思いますね。ただ、そういうものを情報として取り出して、下手な人にも提供できるかもしれないなとは思うんです。例えば、近畿大学のマダイは家系分析的にも結構はっきりしてるんですよね。

 どういう家系からできて、それから近畿大学のマダイはもう何代も経ってるうちに、実は形が天然物と変わってきている。そうすると、家系ごとにある代謝特性みたいなものが結びついてるかとか、そういうことをヒントに何か形と、生理的な状況の違いみたいなことを予測する。ここまでわかってくると、日々の中でここを観察するのがいいっていうのが出てくる可能性があるかもしれない。

 そういう意味では何かもっと広くいろいろ研究をしてみて、群れの中でも、系統による形の変化であるとか、あるいは飼育中の形の変化であるとか、そういう記載をしていくと、何か飼育者に共有できる知見が出てくる可能性はあると思います。


鈴木 なるほどですね。井田先生はいかがでしょう。今まで形態観察をされてきた中で、おそらく次の世代の研究者に観察技術を教えるなんてこともあったかと思うんです。魚を見る人材を育てる中で、これまで心がけてこられたこと、何かありますか。


井田 具体的にそういう目標を持って若い方と接してはこなかったんで、なかなか難しい質問ですね。ただ、やはり健康のバロメーターっていうのは自然ではどうかっていうことに立ち返る必要があるだろうということですね。ですから、自分の飼っている、あるいは養殖している魚が、天然のものと比べてどれぐらいの乖離があるか。これは常に見る必要があると思います。ただ、生きたマグロやカツオを、一般の市民の方が見るってことは極めて困難ですね。ですけど、大型の水槽では可能です。でも長期間飼っていると、どうしても体型に異常がでる。特に顕著なのは、顔面頭部における皮下脂肪の蓄積があると思いますね。

 どうしても長期間飼ってくると、頭部の肥大が目について来、私はそういうのを見ると、もう少し何とかならないものかなと思うんです。けれど、それにはどういう原因があるかは、私は知りません。やはり自然と違うところに、なぜか?という疑問を常に持ち続ける必要はあるだろうと思います。


鈴木 わかりました。そうすると、産業用途であれ個人観賞用であれ、これから魚を飼育される方は、その魚の自然環境下での姿と突合させていくことが大事になってくるのですね。そうすると、アクアリストの方々の存在も大事な反面、やっぱり研究者として、一般市民がなかなか目にできないような本当の自然環境の情報を引っ張ってくる人たちっていうのも大事になってくるということですね。

11. 自然環境をベースに飼育環境下での魚の形態異常を考える


鈴木 健康のバロメーター、魚の行動の話、餌食いの話がありましたが、外見上含め、何か他にありますか。


黒倉 実は歴史的に言えば、飼育魚の形態異常って研究はかなりあって、有名なのは異体類、有眼側が黒くなっちゃう話とか。それから、マダイの鼻腔の左右の壁がなくなっちゃって繋がるとか、問題にもなったんだけど、解決してないんですよ。実際にはもっと研究してみれば、養殖魚と天然魚で違うことはいくつもあるだろうな。結局、ビジネスの中で解決しようとすれば、「異常だけどいいや」ってなることは見落とされちゃっている。

 まだ放流が盛んだったころは、異体類の放流魚は有眼側が黒くなってるのはまずいって話で、結構研究もやってたんだけど、それも解決を見ないままに終わっちゃったみたいなんですね。だからそういう視点では、またいろいろ細かく飼育してる人たちのレポートみたいなのを使って、その研究を取り戻していくっていう手はあるかもしれない。


鈴木 確かに、マダイに関しては、養殖魚と天然魚を見分ける指標に、鼻腔が繋がってるか繋がってないのかっていうのはあるぐらいに放置されている。マダイの鼻腔の部分は商品としてはそんなに注目されないというのもあって、無視をされてるんですけどね。

 長期間飼育される方々にしてみると、やっぱり問題としては大きいのかなと思います。今回井田先生、黒倉先生のお二人にお話を伺った中で、自然の環境でのその魚の状態はどうなのか、自分の飼っている子や飼育環境と比べて何が違うのかっていうやっぱり自然との比較は、常に意識するのが大切ですね。

 餌食いの行動にせよ、形態異常にせよ、いろいろなポイントがある中で、やっぱり自然に立ち返って判断するのが非常に重要かなと思います。