三陸エンリッチメント研究室

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⽔槽で⿂を飼育するということ-知ると飼うのが楽しくなる科学的知⾒-【Part 5】

目次

  1. 魚にとっての寿命とは
  2. 「魚を長生きさせる」という新しい試み
  3. 自然環境と飼育環境の橋渡しとしての餌
  4. 学術機関とアクアリストの連携の可能性③
  5. クロージング:三陸エンリッチメント研究室の役割

18. 魚にとっての寿命とは


鈴木 これが最後の質問になるんですけど、今までいろいろなお話を伺ってきて、健康評価の段階では自然と、今の飼育環境もしくは魚の状態がどう乖離してしまっているのかを見ていくのが重要だということでした。では、そのギャップを埋めて、魚を長生きさせていくということについても、お話を伺っていきたいと思います。特に、(休憩時間中にも)お話が出ていた、魚の寿命について考えていきたいなと思います。寿命という概念を魚ではどう捉えていけばよいのでしょうか。


黒倉 これはあれだよね、73歳と83歳のおじいさんに問うのはなかなか酷な質問で。寿命って何か。いろんな生物に対して寿命というのをどういうふうに定義して、測定したり表現していくのかっていうと、共通するのは「ある年齢になってバタバタ死ぬ」ってことですよ。だから73歳か、83歳が寿命なのかは知らないけど、その頃になると、私の友達なんかもそろそろ死に始めているんだけど、死ぬ割合が増えるんですよ。バタバタバタって生残率曲線が急に下がるところを寿命としているんだよね。魚で寿命があるかっていう問題については、寿命がないんじゃないかって説があるわけ。それは何故かというと、天然の中で魚が死ぬのは事故死とか病死だから。つまり、ある確率で死んでいるから、死亡確率的には生まれてからの時間が経つほど増えるという一直線になっちゃう。人間みたいに長生きして、寿命のところでバタバタ死に始めないから、寿命は測れないっていう問題なんですよ。

 だから、魚の寿命があるかないかっていう問題は、要するにその定義でやると、ないになるに決まってくるんですよ。でも本当にないのかって話をすると別。そうすると、本当に事故死をしない、病死をしないような状況で飼ってみて、どこまで生きるかってことをやらない限り、魚の寿命は推定できないと思いますね。寿命という定義から考えるとね。



鈴木 今、長生きについて考える前に、寿命の話をしたんですが、そもそも、長生きってことすら魚に関しては今まで考えたことが、なかったかもしれません。


黒倉 少なくとも養殖業者は、さっさと作って、さっさと食っちまうことを考えたんだから。そんな寿命について考えるはずがないんですよ。


井田 経験的には、飼育環境下では何年生きたとかそういう数値は、かなり報告事例があると思うんですよ。天然域では、基本的には弱った個体っていうのは、食べられちゃうんですよね。寿命が尽きてしまうっていうケースは、ほぼないだろうと。私ももう60年は海に潜っていますけど、死んだ魚を海底で見るっていうのはほぼない。釣り環境で、針がかりして捨てられたのが死んだっていうのは何回もありますけど、自然死と思われる個体に会ったことはないんですよ。

 海底で、たまたま自然死したのを、アカニシ貝みたい特殊な貝が食べているっていう現場には遭遇したことがあります。事程左様に、弱った個体、あるいは死んだ直後の魚っていろんな生物に襲われて食べられちゃうと思うんですよね。

 だから死ぬ前に利用されてしまうっていうのが、僕は現実だろうと思う。そういう意味では、自然界での死っていうのは、彼らにとっては、偶然っていうか、寿命とは違うんだと思いますね。ですから、自然界でマグロが何年生きるかとか、耳石解析からこれは7年で死んだとかそういうことはわかるんですけど、それが10年生きられるか、15年生きられるか、多分そういう記録は、難しいかな。


黒倉 あの研究はその後どうなっているかわかんないけど。1回産卵のサケ科があるじゃないですか。シロザケは川に帰って死んじゃうって、あれは性成熟というエネルギーの消費がなかったら生き残るのかみたいな。産卵後の魚を無理無理に何か活性化させて、生き残らせてみたら生き残ったとか、そういう研究ありましたよね。

 あれはただ単に産卵の疲弊でもって死んじゃうのであって、だから寿命がそうなんだってことじゃないんだっていう説があってね。その研究がその後どうなったかは知らないんですけど、面白い研究だなと思った。


井田 でも、それは例外的なケースですよね。大部分のサケ科サケ属の個体は一度産卵です。

黒倉 現実にはそうなんだよね。


井田 それはもうアユも同じですよね。アユは1回産卵で死んじゃいますけど、池田湖みたいに越年アユってのがいるわけで。生き物を見るとどの種でも例外はあるんですけど、マジョリティーとしては1回繁殖して、卵や子どもを産むと死んじゃうっていうのがね。


黒倉 そうじゃないヒトが特殊なのかな。成熟と死って、何か結びついているところがあるんですよね。ライフサイクルとして。


井田 だってほとんどの哺乳類は成熟して、生殖年齢終わると死にますよね。人間はある意味では特異ですけど。魚で寿命があるかどうか非常に謎が多い。


黒倉 それ自体を常に考えて研究テーマにしたっていいかもしれない、面白い話ですよ。


井田 一般的に高い飼育技術を持つ方の、飼育歴は、想像しているものより遥かに長いですね。


鈴木 お話を聞いていて思ったのが、ある程度の年数で早めに育てて早めに商品化してしまうのを目的とするいわゆる養殖魚の話とか、自然の中では弱ったら食べられてしまうという話、そして特に自然界ではそこから回復するための病院みたいなものもない。そういう中で、実は養殖業、自然環境と、アクアリストの方々がやることって全然違うんだなと思いました。

19. 「魚を長生きさせる」という新しい試み


鈴木 魚を長生きさせるっていうのは、かなり新しい試みなのだろうというのをすごく感じました。最後に、アクアリストの方々が魚を長生きさせるためには?という視点で、今までのお話の中で出てきたことと重複しても結構なんですが、全体を総括してみて、どんな印象を持たれましたか?黒倉先生からお願いできますか。


黒倉 いや、最後に長寿とは何かって話と、長寿をさせるために何かって話が来たのは話の流れとして当然なんだけど。人間にも長寿研究ってのはあるんだよね。でもあの研究ってどれを見てもあんまり大したもんじゃないね。どっかの村が長生きだとか、日本人が西洋人より長生きだとか、何かとかいろんな説があるけど、あまり説得力のある説明って聞いたことない気がするね。どっかの国がヨーグルト食うからだと分かっても、じゃあヨーグルト食ったやつはみんな長生きになるかというとそんなことないわけだよ。そういう意味では、長生きさせることがどうかということは、魚にとってもすごく難しいことだと思うんです。一般的なことしか言えないけど、ストレスなく、それから病気にかからず、事故合わず、良い環境で暮らしましょう。そういうことですよね。


井田 それに尽きるかな。


黒倉 そうすると、やっぱり魚がその飼育水槽の中で感じるストレスって何だろうみたいな話にまた戻ってっちゃうんだよね。


鈴木 そうすると、やっぱり井田先生がこれまでおっしゃっていた、自然との乖離の度合いみたいな話に戻るんですかね。


井田 そうだと思います。


鈴木 長寿研究はあまり当てにならないという話がありまして、ある意味、これって科学的にも扱いづらい話なのかなと。一般化がしづらい話なのかなと。


黒倉 いや、逆に言えばアクアリウムの中だからこそできるかもしれないんだよ。人間で長寿研究を実験的にやったら犯罪ですよ。


井田 コントロールにされた方はね。長生きした方がいいけど。エシックスの問題なんですよ。確かにお魚さんだったらね、文句言われにくい。マニアックな人からはどんな非難も避けられないんですけどね。


鈴木 まさしくそうですね。長寿研究っていう観点からいったら人間と非常に近いって言っていたお魚が、これから活躍していく、でもそれは実験としてもそうですけどアクアリストの方々からしてみたら自分の飼っている子を長生きさせるっていうある意味取り組みですね。


黒倉 あるいはゲームとしても面白い。


鈴木 飼育のスキルみたいなところが多分関わってくるかなと思います。井田先生の方にもちょっとお伺いしたいのが、こういうやっぱり魚長生きっていうので、自然環境と魚の関わりっていうのを井田先生は見てきたかと思うんですが、自然環境の中で長く生きる魚って元々寿命が長い、寿命という言葉は適切かわかんないですが、比較的長く生きるとわかってる魚っていますよね。


井田 例えば、スタージョン、つまりチョウザメの仲間は何回成熟しても、栄養条件が良ければ長生きしますね。数十年数百年という推定値はあると思います。それも自然環境下じゃなくて、飼育していてそういう数値ですから、多分、自然環境下ではそれほど長生きできないんじゃないかと。

 あとは、一般的に言えば、脊椎動物の成長ってのは温度依存ですから、早く成熟するものは寿命短いですね。具体的に言いますと、アラスカメヌケってメバルの仲間ですね。北太平洋に住むのは百数十年生きるのが、耳石の解析でわかっています。皆さんご存知のように、アユとかマハゼは成熟して、1回繁殖行動して、次世代を生産したらほぼ死にますよね。ラッキーなのは越年して生き残りますけど、ほぼ年魚とか2年魚と言われるものは、早く成熟して子孫残して、次世代を確保したら自分は生を閉じると。ところが成長の遅い北の魚、一般的に論じると生きる期間が長いですね。

 だから、成熟過程と寿命は非常に強くリンクしている。長生きするものは成熟も遅いけどというふうに言えると思います。

20. 自然環境と飼育環境の橋渡しとしての餌


鈴木 なるほどですね。そうするとやっぱりある意味、人間が人工環境の中で飼っていくときに、成長を急ぐあまり、例えば高カロリーの餌、高栄養の餌っていうのを無理くり成長させるってのはやっぱりよくないですか。


井田 短命に繋がると、私は予想しています。

鈴木 ありがとうございます。お聞きしたいことはこれぐらいなんですけれども、何か先生方からあれば。


黒倉 そうね、環境が良くなると、長生きになるかっていうと、環境とは何かということの堂々巡りになっちゃうんだけど。そうすると、やっぱり自然環境と人工環境の違いが、どこにあって、それぞれがどの程度魚にストレスを与えるかみたいなそんな話になるんだと思いますよ。でも実際には、自然環境なんか水槽内に与えられないわけだよ。そうすると、どう自然環境の一部分を切り取って、擬似自然環境を作るかっていうそういうテクニックの話なんですよね。


井田 少なくとも、生命の根源である餌に関しては、その自然に近い餌ってのは極めて重要なファクターであろうと僕は思っています。


鈴木 ありがとうございます。非常にこの話をエンリッチメントでやったということに関して、すごい良いまとめだったのかなと思ったのがですね、やっぱり自然環境との乖離をなくすことはできないと。どうしても乖離してしまうので、だったら自然の中から持ってこられるファクターに関しては最低限、水槽の中に持ってきてあげましょうと。その中でやっぱり餌っていうところの課題が非常に大きいと感じます。最近では、いろんなアプローチで餌が開発されてきている中で、徐々に自然環境に近いものが再現できているのかもしれない。でもその餌だけを再現してもやっぱり駄目で、彼らの摂餌行動も一緒に誘発してあげるような、そういった何かしら餌と環境と行動のセットで、扱っていかなきゃいけないかなと。

 あとはその魚の段階に合わせた餌のチョイスですね。人間もそうですけど、離乳食を食べる子どもからステーキが食べられる大人まで、1人のヒトでもライフステージによって食は多種多様なわけなので、やっぱり人間と魚は常に似た生き物であると考える必要がありますね。そうすると、個体差もあれば、成長段階によるその差もある、というようなことを意識して、やっぱり魚に対して接していくことが重要なのかなと。

21. 学術機関とアクアリストの連携の可能性③


黒倉 一つだけアクアリストの方に言いたいのは、僕らが今ここで考えているのは、研究者あるいは養殖業者と、水族館、それからアマチュアのアクアリストの方を繋ぐということ。そういう繋がりの中で、共通の話題を持って、特にアクアリストの方々から、こういう場合はどうしたらいいのかみたいなことの提案をしてもらうのが良いと思うんだけど。

 ただ、ここでは研究者といったプロが、ああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないってこと言うんじゃなくてね。僕らが言いたいのは、その中で生物を凝視する、一個体の魚を凝視する、そういう見つめるってことそのものに、すごくスキルが必要とされるということ。見つめることが上手になって、それを記録することも上手になって、それから何かを考えていって、自分が上手になっていくと、一つのチャレンジとしてすごく面白いから。やっぱギターなんかもそうで、うまくなった方が楽しいのよ。だからそっちを目指した方がいいっていう話ですね、どうせ楽しむなら。そういう世界が開けていくということでしょうね。




鈴木 いかがでしょう。井田先生もそのアクアリストの方に言ってみたいことはありますか。


井田 この1週間ぐらいなんですよね。アクアリストの行動を知ろうとしたのは。だから、要望までは考えなかったんで、ちょっとすぐにはご返事できないんですけど。でも彼らが持っている情報ってのは非常に重要なんで、何かおかしなことあったら積極的に魚類研究者の方に発信していただければ嬉しいなとは思います。


鈴木 アクアリストの方って要するに、これまで基礎研究をやってきた魚類学者の方々と非常に行動自体は似ているんじゃないかな。だからある意味、アクアリストの方の情報も研究者の情報も本来は突合できなきゃいけない。その方がおそらく進展していくだろうと思います。


黒倉 そうだね、感性的に特に魚類学の方なんかとね、感性的に合う人も多いと思うよ。

22. 学術機関とアクアリストの連携の可能性③


鈴木 はい、ありがとうございました。後半の部はこれで終了なんですが、エンリッチメント的にもですね、非常にいいお話が聞けたのかなと。自然の乖離のお話とか、自然環境を水槽下で再現していくお手伝いをするっていうビジネスが、ある意味、求められて、それはきっと究極的に言うとアニマルウェルフェアの話になって、魚にいかに一生を長くであれ短くであれ、過ごしてもらうかと。なんか老人ホームのような環境を水槽で整えて、最後は心地よく終わるというね。


黒倉 老人だって楽しく生きたやつが長生きだって説はある。そういう実例として私の父は97歳まで生きたけど、実に楽しい人生だったよ、あの人は。


鈴木 満足して、その人らしいっていうのを、何か表現できる環境が最適なのかなと。それを、魚で考えるっていうのは非常に面白いというか、思いつかなかった取り組みですね。いやありがとうございました。長丁場でしたが。


土方(三陸エンリッチメント研究室) 最後に、もうこれで対談の方は大丈夫なんですけど、この2日間、先生たちに来ていただいて、何か感想というかそういうのをちょっといただけたらと。また僕らにはどんな可能性があって、これからどう進むべきかみたいなところもやっぱりテーマとしてあるので。何かってことじゃなくて、2日間を総括していただけたらと思いますね。


鈴木 そうですね、ラップアップとして忖度なく、話が聞けたらっていう感じです。


黒倉 いや少なくとも僕は楽しかった。それで、やっぱり僕なりに発見もあったし。それから、ある意味やれることがあるのかなとは思いました。つまりそういうステージっていうか、プラットフォームを作ることをお手伝いできるかもしれないなと思って。それは年寄りの役割としても悪くないだろうなって、やって悪くないことだろうというふうに思いました。


井田 私はもっと若い時代に、こんなチャンスがあったら自分の研究に反映できたなと思いました。80過ぎて非常に残念でした。ということで、実際江見さんみたいな方にお会いできて、ラッキーでしたよ。


江見(アクアリスト) こちらこそ。こちらこそ涙出そう。


鈴木 こういう方々がおそらく業界にくすぶっていらっしゃるというか、発掘できていない方がいっぱいいるんでしょうね。


黒倉 それから、この話大学1年生に見せてもいいと思ったけど、中学生でも高校生でも見たらいいんじゃないかな。そんなに難しい話じゃないんですよね。自分たちの身近にあるものを、そこに手を出してみようと思えれば、すごいいいと思う。


八木(三陸とれたて市場) そうですよね、科学は遠い場所にあるものではないですよね。


井田 身近ですよ。小学生であれ、幼稚園生であれ、むしろ新鮮な目の方が楽しい。


黒倉 もっと小さい子に見せてもいいかもしれない。