第5章 海の資源を価値化するという視点から見た餌料ビジネス
24.バイプロダクトの活用だからこそ成立する餌料ビジネスモデル
八木 ここだけの話ですが、三陸とれたて市場にしてみれば、餌料のビジネスは主戦場じゃない。魚卵は現状の生業品を造る過程で出る端材なんで、高品質の原料を調達することに別途予算が掛かる訳ではない。品質や利便性を高める作業としての労働力は別途掛かりますが、これら多様な端材を先ずはいろんな角度で実験してみて、「この餌料は何に有効なのか」みたいなことに、挑戦することが可能です。
土方 僕らは餌屋じゃないんですよね。餌屋としてこの餌料を作ろうとしたら、多分、ビジネスモデルは崩壊しているんです。だけど、三陸とれたて市場のような食品を作っているところから出る、高品質でありながらもその使途が定まらない部位を用いて、いわば副産物で餌料を作っている。だからできているっていう取り組みなんですよね。
八木 タラなんてものすごい量の卵を捨てることありますもん。白子が欲しくて鱈を買い付けたものの、開いてみたら雌だった。「土方さんどうする?」みたいな。メスはハズレだと思っていたのが、こういう用途であれば、素材が輝きますよね。
井田 卵巣を抱えた雌の個体と雄って簡単に区別はできるんですか?
八木 つかないんですよ。
黒倉 さばかないとわかんない。
八木 タラは特に難しいです。生産者も魚のお腹に中に注射器入れたりして、雄か雌かみたいな選別をかけながらうまくコントロールして混ぜ込んでくるんですよ。極端なことを言えば、雄だけ決まった別ルートで流して、市場には雄か雌かわかんないふりをして雌だけ出すみたいなこともきっとある。オスのタラが欲しいこっちとしては、「ハズレハズレハズレハズレ、時々アタリ」みたいなことが結構ありますよ。
井田 そうか。八木さんのとことしても、ハズレばっかりもらっても困るわけだ。魚体そのものの刺身用途では価値が高まらないから。
八木 そうですよ、その時期になると白子を持っている雄が欲しいんですよ。
黒倉 そこで雌の価値化ができればいいんだな。
土方 「いっぱい卵が来たけどどうする?」って聞かれて、とりあえず凍らせているけれど、その内、在庫がいっぱいになっちゃうんで、もういいですって。
八木 多分1匹当たり、容積としては1.8リットルとか1.5リットルとかいう量で卵が出るんです。
井田 卵で2リットル近くあるんだ。
八木 だからこそ有効活用できるといいなぁと。
黒倉 そこまでは、おそらく今の種苗生産研究をやっている研究者も考えてないと思いますね。
井田 卵は餌として、悪いわけないよね。個体が発生するんだから。
黒倉 それをバイプロダクト(副産物)で埋められるっていう情報は、第一線の研究者の所にはいってないと思うよ。
25.海の資源をあまねく価値化するアプローチとしての餌料ビジネス
土方 これをやっていて本当に面白いなと思うのは、SDGsではないですが、本当に豊かな海の幸を余すこと無く経済活用しているなと。あと餌屋じゃないっていうのがいいんでしょうね。というのは、僕は今この事業をやっていてすごく変な言い方ですけど、気持ちとしては、すごいクリーン。邪な思い無く、僕らは素材そのものの価値を、なるべく毀損させないで提供することを仕事としているので、時間がかかっている理由ってのはここにもあると思います。必要な栄養素を添加する、配合するということはないので。先ほど黒倉先生からもあったんですけど、この製品って、使う側(ユーザーに)にある程度の判断を委ねている部分があるんです。「この餌料は、自然環境からそのまま取り出しました。それを踏まえた上での使い方はおまかせします。」っていう感じ。これからもっといろんな使用事例が出てくるだろうし、素材ベースでも「これも使えないかな?」っていうのもニーズとして増えてくると思います。
黒倉 その時になって、こういうものの「価値化」が終わるわけだろうな。
土方 そうなんです。だからある意味、僕は気持ち的にはですが、漁業者や水産加工工場には出来ない角度で自然に向き合うことができているなと思っている。
黒倉 でも、それって成功すれば、新しい価値の発見だな。海の新しい価値を発見したことになる。
八木 そう。こうなるとこれまで経済的な価値があるお刺身、例えばマグロとか。そういう単一の価値観で海にある大多数の資源を過小評価してきた。極端なことを言えば大多数を粗末にしていたみたいな。でも、こういう視点で海の資源を見つめ直すと・・・
黒倉 まだ全然価値化できるものが眠っている。
八木 そう、色んな角度で価値化ができる。そういった、まだ経済活用策が見つからない資源の個性を見いだし、それらが輝く舞台を設えてあげれば、多分このビジネスではその辺のテクニックが勝負所なんだろうなっていうことを感じますね。

エンディング
黒倉 そのときになって、やっと技術とニーズがくっつくみたいな。うん。近大の升間は飲み友達だからさ。
土方 営業をお願いします。(笑)
八木 「発眼卵とかいかがですか!」っていうね。ところで土方さん、発眼卵の顕微鏡映像を先生達に見てもらいましょう。
井田 これはもう、全く想定外だったな。
八木 (動画を見ながら)これ、発眼卵を溶かして解凍した状態。
黒倉 形状が崩れてないんだ。
八木 こうやってみると1匹1匹が本当にかわいく感じますよね。
井田 この映像ですが、水生生物は水につけた状態で撮るべきですよ。水から出すとハレーションを起こして形態認識が難しくなるから。これ土方さんが撮られたの?
土方 これは試行錯誤しながら撮った初期の画像です。「どうやったらいい絵が撮れるのか」みたいな。だって顕微鏡レベルの細かさだし、道具もまだ無い中で「接眼レンズにカメラくっつければ撮れるかな?」みたいな。
八木 それも生物顕微鏡で撮ったんで、光とかめちゃくちゃなんですよ。だからようやく実体顕微鏡を買ってね。
土方 そうですね、ちゃんと実体顕微鏡で撮り始めたのがようやく昨年。昨年のこの事業で、実体顕微鏡買ったので。
八木 今、常温の海水を入れて、解凍してみます。解凍時間は5分程度ですね。
黒倉 解凍作業はそんなに難しくないのね。
井田 これ、製品の厚さは何ミリぐらい?
八木 1センチないぐらいですね。5mLの容積。このぐらいが多分一番使い勝手がいいのかなと思うんですよ。
黒倉 問題は商品として考えたときに、どのぐらいの大きさが使い勝手がいいのかっていう、そこだよな。
八木 いっぱい使うものではないんで。
井田先生と黒倉先生との討論会動画
学術的討論会 Ⅰ 研究室動画