三陸エンリッチメント研究室

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学術的討論会 Ⅱ(5人座談会)【前編】

科学者とアクアリストの交流の場の重要性

  1. オープニング
  2. アクアリストの視点と研究者や産業界の視点の違い
  3. アクアリストと科学者の知見交換の場の不足
  4. 新しい学問の立ち上がりは「邪道」に注目する研究から始まる
  5. 時代や技術の変化によって学問の本流は変わり得る
  6. 「個」の魚に対応するコミュニティを作り上げる
  7. 餌料ビジネスを超えた「海の天然素材屋」としての立ち位置
  8. ユーザーの小さな悩みに対応する経営者の視点
  9. アメリカに学ぶ学会と産業界の交流の場の在り方
  10. 学会内にブースを作って研究者に凍結餌料をPR
  11. 餌料・研究素材向けマーケットでこそ価値が生まれる資源の存在

オープニング


三陸エンリッチメント研究室 代表 土方(以下、土方) それでは座談会の第2弾です。ここからはアクアリストの江見さんにも加わっていただき、水槽の中の魚に向き合っていく人側の体制や、後半では魚が求める餌料の在り方について、話をしていきたいと思います。まずは、アクアリストの江見さんからの疑問です。犬や猫など他のペットは、獣医師等から病気治療や栄養指導を受けられる機会があるが、魚類にはそれがない。いわゆる「科学への接点がないんじゃないか?」ということを考えていこうと思います。

1.アクアリストの視点と研究者や産業界の視点の違い


三陸とれたて市場 八木代表取締役(以下、八木) うん。でも実際には江見さんが科学との接点がないって言う以前に、アクアリウム業界自体にもそういった科学と現場の接点が少ないように感じます。水産業界もこれまで、食用の魚介をいかに効率よく短期間で育成するのかというところに特化しており、魚の健康的長期飼育などはおおよそ想定していなかった。例えれば、個の話ではなく群れとして捉えてきた。


黒倉名誉教授(以下、黒倉) 要するに、これまでは半年とか一年で売れる魚を作る研究が中心だったんだね。いかに数を作るか、みたいなね。そんな中で、業界人から言わせると、「長生きする魚を作った覚えはない!」、「そんな研究をしたことがない!」という人の方が圧倒的多数だろう。


井田名誉教授(以下、井田) 江見さんがおっしゃられているように、本来、獣医師さんは法律上、魚病の発生に対しても責任があるんですよ。ところが、産業ではそんなことを気にしたら、養殖魚が生産できない。だからもう、魚病が出たら殺しちゃう。それで、種苗を新たに入れて現状の回復を図る。だから、「個」レベルの魚の飼育に対応する体制はゼロですよね。

2.アクアリストと科学者の知見交換の場の不足


黒倉 そういうときに現場と科学の知見を交換しようと思うと、例えば、科学者と接点がない人は、一般的な科学者と接点を作ろうと思って魚類学会に行くことはある。あるんだけど、魚類学会に所属する研究者だって、本当に飼育や、「個」の生物としての魚を見ている人は、実はそんなにいない。そうすると一つ考えられるのは、自分たちで新しい学会を作っちゃう。学会とは言わなくても、研究会や勉強会ぐらいでも良いかもね。


江見友子さん(以下、江見) アメリカにはそういったコミュニティがあるんですよ。


黒倉 日本だってそこら中にありますよ。自分たちで勝手に学会風のものを作っちゃっている人だっている。今の学会だって、明治時代の終わりから戦前ぐらいに、どこかの大学の何人かの研究者が集まって立ち上げたような団体が残っているだけで、学会なんてそんなもんですよ。


井田 NHKの朝ドラの「らんまん」にあったでしょ。日本植物学会は、牧野富太郎が立ち上げた。


江見 あぁ、「らんまん」の!そうなんだ!


黒倉 牧野さんは大学卒の学者じゃないからね。下手な学者よりもすごい有名だけど、学歴がなくとも独学の末、東大の助手にもなっている。博士号は最後にもらったんですかね?


井田 もらいました。

3.新しい学問の立ち上がりは「邪道」に注目する研究から始まる


土方 そうすると水産学には、観賞魚を育てるみたいな研究分野はあるんですか?


黒倉 観賞魚に対して、水産学はとっても冷たい。


土方 やっぱりそういうことなんですか。今までの話を聞いていて、観賞魚の話が出てこないなっていうのは、やっぱり商業的に価値がある知見に研究が集中しているということですか?


黒倉 ただね、例えば小林牧人くんとかあの辺の研究者たちは、その風潮に嫌気がさしていた。彼は金魚の研究者だったから、ものすごく馬鹿にされたんですよ。すごい優秀な人だけど。周りからも「何で金魚にこだわるんだ?」と言われてきて、それが嫌だった。観賞魚だからこそできることもあるのに、それを重視しないっていう研究視点が嫌だって言って、東京大学からICU(国際基督教大学)に移っちゃった。そういう風潮なんですよ。僕も魚の精子の保存をやったときに、ニシキゴイでやった。だって、ニシキゴイは買い手が金を出してくれるじゃん。系統とかにもこだわってね。でも、ニシキゴイは観賞魚だから、観賞魚研究って言われて結構馬鹿にされましたよ。


江見 やっぱり、何か、そういうちょっと「斜に構えた視点」っていうのがあるんですね。


黒倉 だけど、結局はどこまでいったって研究って言うのは邪道が作ってきたんで、邪道がどんどん入ってきたらいいんですよ。例えば、水産学会に社会科学を立ち上げたのは僕だもん。「社会科学なんて水産学じゃない」っていう時代に、僕は東大に戻ってきてから、「作れ」って言われて作った。元々僕は、増養殖の研究者で生物屋なのに、最後リタイアするときには経済学者だと思われていた。(笑)


八木 僕もずっと水産経済学の先生だと思っていました。特別講義とかで指導してくれたじゃないですか。生粋の生物屋で本職は「精子の凍結保存?えーっ!?」みたいな印象でしたよ。


黒倉 だからいいんですよ。どんどん自分たちが学会を立ち上げたって構わないし、それから既存の学会なんかに入っていって荒らし回ったって別に。それは学問の進歩ってことでいいんです。


江見 学問として見られてきた魚類。これも私にとっては先生方にお聞きしたい質問の一つだったんですよ。だから、観賞魚研究が冷たくされてきたって言うのは、私の印象としても何となく理解できます。


黒倉 だけど、どこだって本流ばっかりが大きな顔しているところは発展しないですよ。学問の世界は常に変わってきたんですよ。


八木 江見さん、これは鑑賞魚の世界だけの話じゃない。三陸とれたて市場も正面切っての邪道ですからね。日本で冷凍のお刺身とか言ったら、品質以前にけちょんけちょんです。


江見 そうですよね。


八木 でも、時代のニーズでどうしてもそっちに向かわざるを得ないのです。

4.時代や技術の変化によって学問の本流は変わり得る


黒倉 やっぱり、水産学の本流って資源学なんでしょうか?


井田 そうでしょうね。


黒倉 いや、資源学の研究室にいたのに、生態学をやったから、昔はちょっと肩身が狭かった。


井田 いや、人がなんて言おうが気にしなかったからね、僕は。人と同じことは大体嫌いだから。


江見 私もチョウチョウウオを飼っている理由が、人とただただ一緒と言うのが嫌だったからです。


黒倉 だからいいんですよ。全然違うことをやっていても。


江見 飼育情報のほぼないような魚ばっかり飼ってきたんです。


黒倉 今は、ダイビングをやって、生態学的に研究していくって人が、結構水産学の中でも多いですよね。


江見 あと、やっぱりカメラの技術が発達したことで、今まで日本にいないって思ってきた、標本がなくて登録できなかった魚が報告されてきていますよね。


黒倉 カメラとかダイビング技術とかね。そういう技術に裏打ちされた視覚的情報によって、世の中って大きく変わっちゃうんですよ。だから、研究や業界の本流なんて考える必要はないんだよ。


井田 そうです。


江見 「芯がぶれなかったらいいのかな」と私は思っているんですよ。


井田 支流が本流になればいいだけなんです。本流を作る気持ちでね。


江見 例えばあのキイロハギという観賞魚で好まれる魚のブリーディングの論文とかも、学会誌で見つけたりしているんで、そういう研究も邪道ではなくなる世界がだんだんできているんじゃないかなと思う。


黒倉 もう僕はリタイアしちゃったけど、水産学会の編集委員会でもやっぱり受け入れる論文は変わってきていますよね。ずいぶん間口を広げてきて。だから全然心配ない。そのうち魚類学会じゃなくて水産学会だって入ったらいいし、一派を作ればいい。

5.「個」の魚に対応するコミュニティを作り上げる


江見 でも、そういったコミュニティの組織化以前に、やっぱり「個」の魚を見続けている人とアカデミックの接点が薄いんですよね。


黒倉 そういうときに、「魚をペットとして飼っちゃう視点」っていうのを強調するといいね。我々のスタンスは、「一個体一個体の生涯に付き合っちゃうんだ」みたいな。


江見 獣医師の仕事が成り立つのと一緒で、「個」の魚に寄りそう仕事って言うのもありえますよね。そう思っているアクアリストもきっとたくさんいるとは思うんですよ。


黒倉 そういう同士を募ってね。


江見 そうね。でもどうやって募ればいいんだろう?


黒倉 なんか最初に立ち上げれば、自然とそれに寄ってきますよ。時間はかかるけど。


江見 そのプラットフォームに、三陸エンリッチメント研究室がなり得るんですか?


黒倉 なり得るんじゃないかな。ちょっと研究室の庇(ひさし)を貸してもらう感じでね。

6.餌料ビジネスを超えた「海の天然素材屋」としての立ち位置


土方 いろんな人に我々の餌料を試してもらうってことが必要だと思います。そうすると、いろんなジャンルの人が来る中で、徐々にそれがコミュニティに育っていくんだと思いますよ。だって今、僕がネット販売している中では、ほとんどが個人のお客さまが買っていますからね。逆に言うと、ちょっと今の話とは離れますけど、団体や企業が買うってなると、その多くは研究所です。例えば、大学の栄養学の先生で、ヒトのアレルギーの研究をするために、素の魚卵がどこにも売ってないからって理由で買っていた人もいる。あとは、開発系の企業が、素材からこういう物質が取り出せないかみたいな研究をするときに、品質劣化のない良質な素材が市場では調達不可能だったのでと言って、結構な数量を買われたりしています。


黒倉 研究だったらね、金に糸目をつけないから。


八木 でも、皮肉なことにそのピュアなマテリアルがなかなか売ってないんですよね。


土方 そうなんですよ。有名どころの企業名で依頼が掛かるので、一回電話するんですよ。「使途に応じた素材調整を行いますが、何に使われますか?」って。「飼われている魚種等あれば?」って聞くと、「いや、素材目当てなんです。素材が売ってないんですよ」って言われる。だから、アレルギーの先生なんか特にそうだったんですが、季節にかかわらず必要な時に調達できるのが大きい。なにせ、ある程度の種類を常時在庫していますので。


井田 それらは加工品ではいけないもんね。


土方 はい、生で無添加の、いわゆるピュアな状態のものを探されていますよね。


黒倉 だから、こういった三陸エンリッチメント研究室みたいに、民間でそういう素材を電話一本で提供してくれるところがあるなんて、みんな知らないだよね。知ったら。「俺のとこもくれや」って言って来るやつがどっかから出てくるかもわからないね。


八木 僕たちが生魚を扱っていたときに面白かったのは、結構大学から問い合わせが来るんですよ。活かしで送ってくれとか。東大からも来ましたけれど、あれが欲しいこれが欲しいみたいな。何ていうのか、トータルで見ると大きな消費ニーズでないんだけど、技官がやるような細やかな材料調達の仕事を、生産現場で対応してくれる組織がほとんど無いと、問い合わせをくれた方たちはみんな困っていた。


江見 私も、高鮮度の生アミエビが欲しかった時に、漁業者さんに二年がかりで電話しまくったわけじゃないですか。もう本当、けんもほろろでしたよ。


黒倉 そういう実態を少しどっかに書くといいですね。もう時代は変わっていて、そういう対応することができたよ、っていう。

7.ユーザーの小さな悩みに対応する経営者の視点


江見 八木さんだけです、その用途から何から、ちゃんと全部聞いてくれたのは。


土方 当時、何で八木さんはその話を聞いたんですか?


黒倉 直感か?


八木 聞いた話からして面白いじゃないですか。困っている人がいて、それに応えられるかもしれないリソースが自分の手近にある。それだけですよ。商業的に見れば、つまり一般の経営者として見れば、手間が掛かるとか面倒くさいとかで切り捨てられそうな話なんですけれど。


土方 そういうことになっちゃうんですよね。


八木 普通の経営的に考えれば、マーケット規模の調査であったり、商品の収益性についての検討であったりをすると、こんなマニアックなオーダーは断わられますよね。ただ、素材ベースとか、可能性ベースで考えると、この様なマニアックなオーダーに応えることで視野が広がるじゃないですか。そんなことに困っている人がいるんだ?きっと同じ境遇の人も結構な数いるかもしれないという思いから、今回の取り組みに繋がったんです。


黒倉 新しいものが生まれるときって多分そういうことなんでしょう。

8.アメリカに学ぶ学会と産業界の交流の場の在り方


江見 アメリカのMACNAに参加したことで、私たちみたいな飼育をする人間と科学者との関わりが重要なのではないかと考え始めたきっかけなんです。これは、アメリカ最大の講習会といわゆる展示会が合体したようなもので、それこそ、そこでは科学者の人と一般人の交流ができたりする。


黒倉 アメリカではそういうビジネスと学会がくっついているのが結構あるんだよね。


江見 そう。いろんな立場の人々が、海の生き物やアクアリウムについて発表する。各テーマごとに部屋が分かれていて、自分が聞きたいのを選べるんです。アメリカではそういう研究者や一般の方々どうしに接点があって、このMACNAイベントだけでも延べ何万人って人が参加するんです。


黒倉 日本の学会では、ああいったコミュニティが好きだって人と嫌いだって人がはっきり分かれるんだけどさ。でも、アメリカの学会ではそういうのが多いですよね。


八木 日本の学会は多分極端にそういうところに潔癖なのかもしれません。「我々は科学をしているんだ」みたいな。


江見 MACNAは、学会とアクアリウムの展示会が一緒になっているような雰囲気。


黒倉 アメリカでは、展示会を学会と一緒にやって、学会の収益性を保っているんだよ。


八木 ある意味、頭良いですよね。


江見 参加費が4日間で1万円でした。


黒倉 結構、日本の学会って金がなくなってさ、学会費を上げるとか上げないとかで揉めたりするじゃないですか。それぐらいだったら別の収入源も考えなきゃね。(笑)


井田 そうですね(笑)


土方 いわゆる、「学会をイベント化している」ってことですね。

9.学会内にブースを作って研究者に凍結餌料をPR


黒倉 だからそういう意味では、日本の学会だって、お金を出してくれるアマチュアサイエンティストを大事にしなきゃ駄目なんだよね。日本の学会はアマチュアサイエンティストに冷たいですよね。


江見 そうですね。例えば、魚類学会でも興味を持ってくれる研究者の人がいるかもしれない。


黒倉 水産学会に展示品を持っていくといいかもしれない。


井田 年会で企業のブース出展をやっていますね。


江見 そういうのもあるんですか?


黒倉 規模は小っちゃいけど展示のブースがあるから、結構、人は寄りますよ。僕は発表を聞く合間に、馴染みの本屋とかに遊びに行っているけどね(笑)


井田 そこに、飼育困難魚を持って行って餌やりしたりとか。もちろん映像で十分ですけどね。でも、映像だとやらせっぽくなるかもだね。


黒倉 そうすると絶対興味持つ人間が現れて、2人や3人は必ず寄りますよ。


江見 ホビーなんかよりいいかもしれないです。私はもう魚類学会に入るつもりでいるんで。


井田 僕は魚類学会員なんですけど、業者のブースは本屋さんに限られるんですよ。だから魚類学会よりも、水産学会の方がいいかもしれない。水産学会なら飼育器具からアマチュアベースまであるからね。


江見 じゃあ、三陸エンリッチメント研究室は水産学会に入会するのもいいかもしれないですね。


黒倉 そしたら東京でやるときには僕がブースに行ってあげるよ。(笑)僕がいれば少しは人を呼び込めるから。


八木 立ち寄ってくる研究者に対しても、新しい気付きを与えられる場になるかも知れませんね。「うわ、こんなもの売ってるんだ!」「その手があったのか!」みたいな。


土方 水産学会の方が良いかもですね。


江見 ブースがあるっていうのは大きいですね。わくわくします。私も、とにかくこういうふうに魚の話を、同じような視点で語れる仲間との接点が欲しいんですよ。

10.餌料・研究素材向けマーケットでこそ価値が生まれる資源の存在


八木 さっき黒倉先生が話に出されていたソイの発眼卵の話ですけど、あの卵を対ヒト(食用マーケット)に売ると、形の気持ち悪さから全く売れないと思うんですよ。


黒倉 でもこれを研究素材として売ったら・・・


井田 もう何万円の世界じゃない?


八木 それだけ化ける要素が、販路が変わるだけで起こりそうですよね。